アイデンティティ
- アディムクティ
- 6月11日
- 読了時間: 2分
更新日:6月13日
2025.6.13(金)
ドミトリーマスレエフさん(37歳)というピアニストがいます。
先日、演奏を聴く機会がありました。
ベートーヴェンのピアノソナタ、
ラフマニノフのエレジー、
ショパンの遺作・・・
美しい曲、胸が締めつけられるような切ない曲、哀愁を感じさせる曲など、どれも素敵でした。
演奏が終わって、フーッと心地よい余韻に浸っていたところにサプライズが!
アンコールを求める万朶の拍手に包まれながら袖から出てきたマスレエフさんが、鍵盤の前に座り、腕を上げたと思いきや激しいリズムを刻み始めました。
全速力で駆け抜けるような演奏で、弾き終わった時、肩が大きく上下して、かなり息が上がっているようでした。
「ブラボー!!」と歓声をあげる人、両腕を高く上げて拍手する人、まさに熱狂の渦です。
私はロシア出身のマスレエフさんの表現の中に「戦争」に対しての思いが表れているように感じました。
鬱屈した何かを燃焼させているような気がしました。
迫力のある演奏が終わり、観客からの大きな拍手に包まれながら舞台から去っていかれました。
曲名が気になって気になってしばらくロビーでアンコール曲が掲示されるのを、そこにいた2.30人ぐらいの方々と一緒にずっと待っていました。
しばらくすると手書きの紙が貼り出されました。

この曲は「時よ、前進!!」というロシア映画の音楽だということがわかりました。
自宅に戻ってからも何回か動画などでみましたが、あの時のマスレエフさんの生演奏から沸き起こった心の震えを再生することはできませんでした。
目を閉じて、胸に手を当て、演奏家の心に私の意識と想像を向けてみました。
幼い頃にお母さんの背中で見た風景、友達と一緒に遊んだ公園、恋人と語り合ったカフェ・・・・。
思い出の詰まった祖国が戦争で大変なことになってしまった。そして今も・・・。
一人一人アイデンティティが違う。
それを痛烈に感じた特別な生演奏。
時間が過ぎていく中で、演奏者のメッセージが加えられた形状に変化しながら、今でも私の心の中で燃え続けています。
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